ケアプラン作成と記録業務をAIで効率化するには?神奈川県・3市合同の「出張タダスク」事例に学ぶ
日々の業務の中で、「利用者さんと話す時間は楽しいけれど、その後の記録作成や書類整理に追われて残業になってしまう……」そんな悩みをお持ちではないでしょうか?
多くのケアマネジャー(介護支援専門員)にとって、ICTやAIは「難しそう」「自分には関係ない」と感じられるかもしれません。しかし、実はAIこそが、ケアマネジャー本来の「相談援助業務」の時間を取り戻すための強力なパートナーになり得ます。
今回は、神奈川県綾瀬市・海老名市・座間市の3市合同で開催された「出張タダスク」の事例をもとに、ケアマネ業務における生成AIの具体的な活用法と、現場の導入ハードルをどう乗り越えたかをご紹介します。
【基本解説】ケアマネ業務における「生成AI」とは?
ケアマネジャー業務における「生成AI」とは、サービス担当者会議の議事録作成やケアプランの「叩き台」作成をサポートするツールです。Google GeminiなどのAIアシスタントや音声入力機能を活用することで、手書きやキーボード入力の手間を大幅に削減できます。AIは人間の仕事を奪うものではなく、情報の整理や下書きを代行し、専門職が「判断・対話」に集中するための時間を創出する「助手」のような存在です。
なぜ今、3市合同でICT研修が必要だったのか
今回ご紹介するのは、2025年12月に開催された「県央三市ケアマネジャー地域連絡組織」による合同研修会の事例です。
あやせ介護支援専門員協会(神奈川県綾瀬市)の佐藤明会長をはじめ、海老名市・座間市の団体が連携し、約120名規模(当日の実参加105名)の研修が企画されました。
現場が抱えていた課題
この地域に限らず、多くのケアマネジャーが共通して抱えている課題がありました。
- 書類の山: 記録業務に1日の大半を費やしてしまい、精神的な余裕がない。
- ICTへの苦手意識: 「業務効率化」の必要性は感じているが、何から手をつけていいか分からない。
- 将来への不安: 人材不足の中、アナログな業務スタイルのままでは限界が来ると感じている。
「業務効率化やICT活用への不安の声が現場から上がっており、基礎から学べる研修が必要だった」と佐藤会長は語ります。そこで、全国で無料のICT講座を展開するNPO法人タダカヨの「出張タダスク」に白羽の矢が立ちました。
出張タダスクで学んだ「明日から使える」3つのAI活用術
今回の研修テーマは「AIの利用 入門編〜ケアマネ業務への応用〜」。 難しいプログラミングの話ではなく、誰でも無料で使えるツールを中心に、以下の3つの実践的な活用法が紹介されました。
1.「音声入力」で記録スピードを倍速にする
キーボード入力が苦手な方にとって、最大の武器となるのが「音声入力」です。 研修では、スマートフォンやPCのマイクに向かって話すだけで、高精度に文字起こしができる様子を実演。 「訪問後の車内ですぐに経過記録を残す」「会議の内容をその場でテキスト化する」といった具体的なシーンが共有され、多くの参加者がその手軽さに驚きました。
2.生成AI(Gemini)を「優秀な助手」にする
Googleが提供する生成AI「Gemini(ジェミニ)」などを活用した、ケアプラン作成支援のデモンストレーションが行われました。
- 活用例: アセスメント情報を入力し、「この内容でケアプランの第1表の案(叩き台)を作成して」と指示を出す。
- ポイント: AIが作ったものをそのまま使うのではなく、あくまで「下書き」として利用し、そこから専門職の視点で修正を加えることで、ゼロから書く時間を大幅に短縮できます。
3.FAXやスケジュールのデジタル化
AI以外にも、Googleカレンダーを使ったスケジュール管理や、スマホからFAXを送受信できる「インターネットFAX」の活用事例も紹介されました。「紙のFAXを確認するためだけに事業所に戻る」という無駄をなくすための、第一歩となる取り組みです。
「食わず嫌い」からの脱却。参加者105名の変化
研修後のアンケートでは、ICTに対する意識の変化がはっきりと見られました。
参加者の声(Before/After)
- 研修前: 「ITは苦手」「AIに仕事が奪われるのが怖い」
- 研修後: 「食わず嫌いならぬ、使わず嫌いでした。若い職員に聞きながら少しずつやってみたい」(ベテラン職員)
- 研修後: 「AIケアマネジメントには驚きました。業務効率化を図り、ご利用者の話の傾聴など対話に時間を割きたい」(管理者)
現場にもたらされた効果
- 心理的ハードルの低下: 「自分にもできるかもしれない」という前向きな空気が生まれた。
- 具体的なアクション: 「明日からGoogleスケジュールを使う」「事業所でインターネットFAXを試してみる」といった、即実践につながる行動宣言が多数出された。
- 本質への気づき: AIは思考を放棄するためのものではなく、「アセスメントなどの本来業務に集中するために使うもの」という共通認識が形成された。
運営メッセージ:ICTは「対話」を生むための武器
今回の研修を企画・運営した「あっきー」こと板垣亜紀子さんは、研修後の反響を受け、次のように振り返ります。
研修を終えて
アンケートを拝見し、「難しかった」という率直なご意見がある一方で、「AIを上手く使うことも一つの手段だ」と前向きに捉えてくださる声もあり、非常に嬉しく感じています。
参加者の皆様のPCスキルや習熟度は多様ですので、今後は「初級編」「中級編」といったレベル別の構成も検討し、より現場のニーズに寄り添った形にアップデートしていきたいと考えています。
大切なのは「手段」と「目的」の整理
ICTやAIはあくまで「手段」であり、「目的」ではありません。自分に合うツールを上手にセレクトし、AIを一つの「武器」として捉えていただければと思います。
結局、介護の現場で最後に重要になるのは「人と人との会話」です。この研修が、事業所内でコミュニケーションを取り、仲間と一緒に「どう業務改善していくか」を考えるきっかけになれば幸いです。ぜひ、それぞれの事業所に合った形にカスタマイズして活用してみてください。
あなたの地域でも「出張タダスク」を開催しませんか?
NPO法人タダカヨでは、介護現場のICT活用を支援する「出張タダスク」を全国で実施しています。「うちの地域でも研修をしてほしい」「AI活用の基本を教えてほしい」という介護事業所様・職能団体様は、ぜひお気軽にご相談ください。

